[ Enchante 2]
ノックをして、声が奥の方から帰ってくるのを聞くと、中へと入る。
「…シャツ、ここ置いとくぞ。それから…」
「えぇっ!? わ、悪いよ…っ。さっき、着てたの一枚で…十分っ」
シャワーの音と共に少女の声が中から響き、朱鷺の声は遮られる。
「…悪くねぇって…。それより…名前、聞いていいか? どうせ当分ここ、居るんだろうし…」
朱鷺が扉に寄りかかりながら聞くと、その扉が急に開いた。
「ぅぁっ!?」
「…きゃ、きゃぁ…ご、ごめんなさぃっ…その…居て、いいの?」
何とか後ろに手をついて倒れ込んでしまうのを止めた朱鷺の横から、バスタオル一枚の少女が心配そうな顔をして覗き込む。
「俺一人だから、他には迷惑かけねぇし。ただ…、んなカッコしてたらそのうち理性が飛ぶかもしれねぇけどな」
バスタオル一枚だけに包まれている少女の身体は、少女の外見の割にはよいと思われる体付きをしていて、先ほどの服を着替えさせるときといい、今といい、朱鷺は極力少女から視線を外そうとしていた。
「え? あ…っ」
少女は慌てて、朱鷺の後ろに回る場所へと移動する。
「…で、名前は?」
すっかりその部分を聞いていないだろう少女に、朱鷺は再度問う。
「か…かざひめっ。風の姫と書いて、風姫…」
一瞬戸惑いながら、少女―風姫は答える。
「ひめ、ね。俺は朱鷺。まぁ、よろしく」
それだけ言うと、朱鷺は立ち上がり、廊下へ出るドアに手を伸ばす。
ドアノブに手をかけたとき、ふいに反対の手を掴まれる感覚を覚えた。
「あ? どした?」
振り返ると、その手は風姫の小さな手二つに掴まれていた。
掴んでいる方の風姫はというと、朱鷺の手を掴んだまま、下を向いていた。
「…ぁ…ぁの、えっと……その…あなたになら……」
下を向いたまま話す風姫は、耳の手前まで顔を真っ赤にして言う。
その姿が可愛らしく思えて、朱鷺はふっと笑った。
そして、風姫の顔を自分の方に向けさせると、赤みを増している軟らかそうな風姫の唇に、自分のそれを軽く重ねた。
「ふゃ…っ」
離れるとすぐに風姫の頬は更に朱に染まる。
「お前には、まだ早いよ」
くすくすと笑いながら言うと、風姫は朱鷺の胸を叩いた。
「か、からかわないで…っ! 少しは…っ、本気、だったんだからっ」
そう言うと、風姫はまた、バスルームの方へと入っていった。
「………本気、ねぇ」
少しばかり真剣な顔で呟くと、持ってきていたシャツを台の上に起き、脱衣所を出た。